私のコトバ

自分の内なる声をコトバにして記録します。

2021.3.31【映画】「私はダニエル・ブレイク」

第69回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品。

イギリスの社会保障の制度と貧困の現実を描いている。

心臓が悪く、仕事を止めざるを得ない主人公ダニエルが、支援制度を受ける手続きのためのヒアリングを受けているところから始まる。心臓が悪いにも関わらず、四肢の不自由の有無を尋ねる質問を、項目に沿って聞かれるのである。「心臓のことをきいてくれ」と訴えるダニエルに、「そんな態度では受給許可がでないですよ」と言う担当者。

行政による保障制度、どこの国でも似たような理不尽さを感じるものなのだと、まず思った。実直に生きている人が守られない保障制度なんて、なんの意味があるのか。

かなり我慢強く、理不尽ながらも行政の指示に従い、使ったことのないパソコンでの申請や、履歴書を書くこと、職探し、面談と、努力を続けるダニエル。しかし、彼の努力などを微塵も評価せず、ルールにあてはまらないことを責め続ける役所の職員。そんなことの繰り返しで、当人が必要としている支援は何も受けられない。

昔気質のダニエルは、苦しいと弱音を吐くことができなかったが、親切にしてあげたケイティ親子の助けを受け容れるに至った。娘のデイジーがダニエルの家を訪ね、ようやく顔をだしたダニエルに向けて言う、「ダニエルは私たちを助けてくれたのよね?」「そう思うよ」とダニエル。「今度は私たちがダニエルを助けるよ」。一人っきりのダニエルが、友人の差し伸べた手を取ったこの場面は、目頭が熱くなった。

素の人間の、互いを思いやる心の行き交いと友情に対する温かいものと、社会が作る支援という名の非人情的な仕組み、人間社会のリアルさを突きつけられた。ダニエルの葬儀の際、読み上げられたダニエルの申告は、人間としての叫びである。

「人間の尊厳」改めて、そのことがいかに大切かを感じさせられた。